元気農園での一コマ

 元気農園は、埼玉県に避難した双葉町民が、地元の人から借りた畑で野菜を作っていて、もう12年になります。
双葉にいたころ、畑作業は大半の人たちにとって当たり前。避難先でも小さな庭で野菜を育てる人は少なくないのですが、こんなふうに皆で集まれる畑があるのはいいことです。

 七月に入って間もない日曜。炎天下の中、キュウリが大量に育っていました。隣りのピーマンと比べてみれば、どれだけ大きいか、わかるでしょう。

 自転車で通りかかった地元のおじさんが「ずいぶんでっかいキュウリだなー」と声をかけてきます。
 口が達者な双葉町のFさんが返します。「スーパーで売ってるような細いキュウリは、うちの畑では作ってねえんだよ!」
 そんなやり取りにゲラゲラ笑っていたら、なんと私の車いっぱいに、オバケキュウリが積み込まれているではありませんか。Fさんの仕業だな。どうしよう・・・。

 キュウリ、ナス、ピーマン、シシトウ、ジャガイモ・・・天候不良で不作だと言いながらも、野菜たちは逞しく育ちます。これを販売できればよいのですが難しく、双葉の人たちが分け合ったり、ご近所に配ったりしているのですが、人手が足りません。12年の間に、畑に集まる人が減ってきたからです。

 埼玉の夏は、双葉の夏に比べると、えらく暑いといいます。汗だくになって作業を終えた皆と、持ち寄った漬物やお菓子を食べ食べ、たわいのない話が始まりました。

 「双葉の人は何だってまあ癌になる人が多いから。私ら避難してくるときに、たくさん浴びたんだと思うよ」
 「スクリーニングの時、あんまりに線量が高いから『原発で働いてたのか?』と聞かれた。俺は原発で働いたことなんてないよ」

 「最初の頃、一時帰宅でバスに乗って双葉に行くとき、線量計を身につけさせられたけど、えらく数値が高かった。もっとも双葉の人たちは、自分の家がどうなってるかしか考えてないから、放射線量なんて気にする余裕もなかったけどね。それから一年くらいしたら、線量計の単位がμ㏜からm㏜に変わってて、ほとんどゼロになったんだ。そんなことに気が付いた町民は、ほとんどいないけどね」

 「私たち、こういうとこで、こうやって話すしかないんだよ」

 「ガンと原発事故との因果関係はない」。甲状腺がんになった10代の若者に、医者はこう釘をさしたそうです。かけがえのない声が、権威によって潰されないように、小さな声を集めていきたいと思います。

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 ところで、問題のキュウリはどうなったでしょう。翌日、遠路はるばる浪江町の希望の牧場に届けました。
 牛たちの口に合うといいなあ。

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元気農園での一コマ への2件のフィードバック

  1. 佐藤正明 のコメント:

    「癌と原発事故の因果関係はない」なんて、どうして言えるのだろう。
    汚染水の放出だって、「処理水」と呼び名を変えて、国際基準に合致しているというが、他国の原子炉を冷やした水と、事故を起こした原発のタンクに貯蔵されている汚染水は全く別物。タンクが満杯だというのも事実と違う。
    小さな声を集めて、せめて福島県庁の幹部にきかせてあげたい。
    県庁が福島県民の味方でなくてどうするのか。

    それにしても大きなキュウリですね。牛たちは喜んだことでしょう。

    • ペコちゃん のコメント:

      佐藤さん。いつもありがとうございます。「癌の話をすると不安がらせることになる」と言われがちですが、そもそも健康や体のことは、誰にとっても日常的な関心事だと思うんですよね。埼玉に避難した双葉町民もガンや高齢化で、元気農園に来る人もだいぶ少なくなりました。収穫するタイミングが遅くなってしまって、ついつい育ちすぎてしまうようです。それでも生きた声を聴くことができる大切な場所。味わい深い話を、トップの人達に聞いて欲しいと思っています。

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