アメリカ人からみた福島の現実

CIMG3077 ポレポレ東中野でドキュメンタリー映画『A2-B-C』を観た。最高。福島の現実を知るにはこの映画が一番だと思った。

 10年前から映画制作をしているイアン・トーマス・アッシュ監督(日本在住の米国人)は、「こういう映画を撮りたいと思っていたわけではないし、福島に行きたいとも思っていなかった」「ただ福島の母親たちの怒りに心が動いた。母親たちの声だけでいい」と、ナレーションも音楽も一切なしで70分にまとめた。カメラの前で「私はA2(甲状腺にのう胞あり)」と言う女子高生。「ここは放射能があるから近づいちゃダメ」と促す少年たち。子どもたちは現実を見据えていた。

 私は警戒区域の双葉町に三度行ったことがある。いずれも5時間の累積線量が11マイクロシーベルトだった。映画に映し出される福島の小学校は、それより高い数値で登校が再開された。「立ち入り禁止」の表示がある学校に、子どもを通学させていいのかと憤る母親。「無断で撮影するな」という校長に対して、イアン監督のカメラは一瞬ぶれるが「その問題は大きくない。ホットスポットにいる子どもたちの健康問題の方が大きい!」と立ち向かう。

 映画に登場する母親たちは、カメラに向かって懇願しているようにはみえなかった。イアン監督がアメリカ人だからだろうか。福島で暮らしてきた自分自身が責任を負わずしてどうするんだという気迫のようなものを感じた。生き証人になろうとしている。唯一泣きながら語る女性のシーンが印象的だ。「逃げも隠れもせず、怒りましょう」と。「福島からただちに避難すべきだ」というのが安直に思えてしまうほど、覚悟し決意してとどまり続ける人の強さを垣間見た思いだ。

 上映後、松江哲明氏とスカイプをつないでイアン監督が対談。監督は「何かをせずにはいられないと、映画を観て感じてほしい。すべて国が悪いというのは簡単すぎる」。松江氏は「この映画を観に来る人は既にわかっている人たち。本当に観に来なくちゃいけない人は、あえて観に来ないのだろう。この温度差を縮めたい」。この、知りたい人と避ける人との格差を縮めたのが『美味しんぼ』だったのかもしれない。だか らこそあれだけ紛糾したのか。

 イアン監督は言う。映画の中では力強く語っている人たちの中にも、三年経った現在、話すことを怖がっている空気を感じると。同感だ。
怒りや疑問や不安を口にするだけで叩かれてしまうんだから、それに抗うのはとても勇気のいることになるだろう。この不自由さとの闘いは、被写体となる人たちだけでなく撮影者の課題でもあるのだ。
 さらに言うなら撮影者は「被害者をクイモノにしてる」と言われたりもする。私自身、双葉町を撮りながら同じ渦の中にいると思ってきたが、そうはいっても、失ったもの、背負ってしまったものの大きさの違いは歴然としている。それでも「記録しておかねばならない」という思いが一致したときに、両者の共犯関係は成立するのだ。
「風評よりも風化が恐い」と言う福島のひとたちに応えたい。風化させないために、何が出来るか考え行動し続けたい。
 自分の中にある思いと、イアン監督は、あまりにも共通している。・・・と勝手に思って勇気づけられている。

『A2-B-C』公式サイト⇒http://www.a2-b-c.com/

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